情報知識学会誌, Vol. 9

情報知識学会誌, 1999, 9(1), 3-8

情報学の周辺問題 -専門用語を比較してみること-
A Transdisciplinary Approach to Informatics -Common term, different usage-
名和 小太郎
関西大学 総合情報学部

 「複製」は著作権制度における基本的な専門用語である。ただし、その法的用語としての使用法は、情報処理分野における技術用語としての使用法とは異なる。ここに見られる同じ用語に対する異なる使用法は、デジタル環境における著作権法の解釈に、混乱と無秩序をもたらしている。

情報知識学会誌, 1999, 9(1), 9-12

印刷産業におけるマルチメディアと情報知識学
Multimedia and Information & Knowledge in the printing industries
深見 拓史
凸版印刷(株)生産・技術開発部

 印刷産業におけるデジタル化の現状と課題、特にここ数年間における印刷前工程 (プレプレス工程)でのデジタル化の進展はめざましいものがある。当然デジタル化された情報は単に紙メディアのみならずCD-Rやインターネットにも活用され始めてきた。このようなマルチメディア化の進展と将来の方向性、情報流通の動きや情報と知識に関する考え方、印刷産業から情報コミュニケーション産業への課題についてのべる。

情報知識学会誌, 1999, 9(1), 13-29

情報学基礎論の現状と展望 -学習・思考機構と超脳計算機への応用-
藤原 譲
神奈川大学 理学部 情報科学科

 情報化の波は90年代に入り情報ス―パ−ハイウェイ、インターネットの展開と計算機の加速度的高性能化、低価格化で加速されてきている。科学技術、生産、流通などから教育、生活などのあらゆる面に情報化が浸透することになり、多種多量の情報が文字通りグローバルに流通することになってきた。このことはこれまでの数値計算、検索、演繹推論などの符号処理中心の情報処理から情報の内容に関る高度な機能、例えば学習や思考機能を明かにする強い要求をもたらしている。これらは現在使われているプログラム主導の計算機では実現できない。これに対して、情報の本質すなわち情報の特性、意味関係、構造などを解析し、それらの原理やモデルを体系化することが必要となった。これが情報学基礎論であり情報知識学とも呼べる。具体的には情報解析、情報構造モデル、意味解析機構などの基礎理論と類推、帰納推論、仮説生成など高度思考機構や超脳型コンピュータへの応用を例として情報学基礎論の概要を紹介する。

情報知識学会誌, 1999, 9(1), 30-36

大学の授業における電子メール活用の実例と効果 -情報学的アプローチによる新授業法の試み-
Effects of a New Teaching Method for University Students by Use of E-mails
平田 周
立正大学経営学部講師

 立正大学経営学部の3年生、4年生を対象とする授業で、Eメールを積極的に利用する授業法を試みた。Eメールにより全受講生に教材を送り、それについて意見や疑問をEメールを使って返事をさせ、さらに教師がそれらにEメールで返答するという方法である。その結果、双方向のパーソナル・コミュニケーションは、教師と学生間の理解を予想以上に深めたほか、とかく固定概念で考えがちな学生達の意識構造や学習意欲について新たな知見を得ることができた。とくに、学生達の情報受容機構 (学習適応性) に顕著な変化が生じており、体系化された知識よりも断片化された情報を彼らに与え、自己内部に自分なりの知識を形成させるという指導法は、各自創造的に考えるという能力が求められるなか効果が期待できそうである。

情報知識学会誌, 1999, 9(2), 1-15

Z39.50による日本語書誌データ検索システム
Information Retrieval System based on Z39.50 Protocol for Japanese Bibliographic Data
宇陀 則彦, 江草 由佳, 高久 雅生, 石塚英弘
図書館情報大学 図書館情報学部

 本論文は標準情報検索プロトコルZ39.50に基づく日本語書誌データ検索システムについて報告する。Z39.50は検索の際のクライアントとサーバ間で通信されるデータ構造やデータ処理方式について取り決めたANSI及びISOの規格である。Z39.50に基づいて検索システムを構築することにより、検索システム間の相互接続が可能になり、互いの情報資源を共有できる。本システムはクライアントとサーバから構成され、クライアントは検索語の日本語入力および表示が可能であり、Z39.50に準拠した全世界のサーバに接続できる。サーバはJapan/MARCをデータとして持ち、フィールド検索、論理演算、履歴検索が可能である。

情報知識学会誌, 2000, 9(4), 3-11

Thesaurus管見
Thesaurus -Past and Present-
寺澤 芳雄
岐阜女子大学 文学部

 まず, 中世から現代にいたるthesaurusの発達をRoget's Thesaurusを中心に概観する。ついで, Roget's Thesaurusが近代科学発展期のキーワード「分類・組織」によって観念を分類・体系化し, これに基づいて英語の語彙組織を確立しようと試みたものであること, その際RogetがF.Bacon, J.A.Comenius, J.Wilkins等の構想から影響を受けたことを明らかにした。さらに, Roget's Thesaurusがその後の時代の要請に応え, どのような変容受けつつあるか, またその構想を応用した各種概念別分類辞典を取り上げて, thesaurusの今後の可能性を考察した。

情報知識学会誌, 2000, 9(4), 12-28

情報処理研究とターミノロジーから見た『分類語彙表』-分類の体系と専門語の扱い-
"Bunrui Goihyo" as a resource of information processing -Compilation strategy and treatment of technical terms-
柏野 和佳子†, 中野 洋††, 石井 正彦†††
†国立国語研究所 言語体系研究部, ††国立国語研究所 日本語教育センター, †††大阪大学大学院 文学研究科

 日本語の代表的シソーラスである国立国語研究所『分類語彙表』について,情報処理研究とターミノロジーの観点から,その特徴を論じる。はじめに,『分類語彙表』の体系について解説と分析とを行い,『分類語彙表』を情報処理に利用する場合の利点を明らかにする(柏野・中野)。次いで,ターミノロジーの立場から,『分類語彙表』における専門語の収載状況を調査し,専門語を含むシソーラスとしての利用可能性を検討するための基礎的な資料を提示する(石井)。

情報知識学会誌, 2000, 9(4), 29-37

シソーラスと文献データベース
Thesauri and Bibliographic databases
永井 賢吉†, 原田 郁子††
†科学技術振興事業団 情報事業部, ††科学技術振興事業団 文献情報部

 JICSTシソーラスについて, 用語の表記, 同義語の扱い, 階層関係の設定等の用語統制に対する考え方を述べた。シソーラスで規定される用語間の関係は普遍なものではなく, どのような収録範囲のデータベースを対象とするかによりシソーラス毎の違いが生じることを論じた。また, ネットワーク上に分散して存在する各種データベース等のデジタル・コンテンツの統合検索に用いること目的として, JSTにおいて整備を進めているデータベース検索用大規模電子辞書について紹介した。

情報知識学会誌, 2000, 9(4), 38-48

意味関係抽出手法統合による概念の体系化
Structurelization of Concepts by Integration of Semantic Relationships
伊東 千夏†, 宇陀 則彦†, 石塚 英弘†, 藤原 譲††
†図書館情報大学, ††神奈川大学 理学部 情報科学科

 本論文は知識資源の自己組織化手法の一つとして、複数の意味関係手法を統合した概念の体系化について述べる。本論文ではEDRの日本語専門用語単語辞書を対象に、造語規則を利用して階層関係を抽出するとともに対訳を利用して同義関係を抽出し、それぞれの結果を統合した。本論文では概念体系を構造としてとらえ、様々な原情報から複数の手法で意味関係を抽出し、構造を自己組織的に変化させて徐々に充実させた。本論文によって、構造中心の手法が概念の体系化に有効であることを示した。


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