abstracts2001?
最近注目されている電子メディアが学術情報流通において果たす役割に関して考察した。その際、電子メディアの持つ技術的利点のみに注目するのではなく、科学者たちによる独特な性質を持つ科学コミュニケーションの観点から考えた。医学、心理学、物理学、歴史学分野における日本の研究者たちの電子メディア(電子メール、メーリングリスト、WWW、電子雑誌) 利用状況調査を引くことで、研究者たちは全般的には電子メディアを利用しているが、電子雑誌の利用に関しては分野による差が大きいことを示した。出版社・学会による学術雑誌を中心とする既存学術情報流通システムに対して、電子メディアを利用することによって初めて可能となるオープンアクセスな流通のあり方の提案に関しても検討した。
American Society for Information Science and Technologyを中心に進んだ研究は、図書館・情報サービスの歴史や情報学の分野それ自体の歴史を扱って成果を挙げている。本稿では、そのような近年の情報学における歴史学的研究の動向を踏まえ、情報学の立場からの歴史研究とメディア史(コミュニケーション史)の双方の視点を有機的に統合することによって、より包括的な情報史の研究を実現するための方策について論じた。情報環境の概念を導入すると、情報学の視点からの歴史研究は情報環境の構築・準備および管理という観点から構造的に把握し直すことが可能である。これに対し、メディア史の観点からの歴史像、つまり情報環境に囲まれた人々の情報探索行動や利用行動に焦点を当てた歴史記述を付加することによって、総合的な情報史の歴史観が得られると結論付けた。
「情報とは何か」という問題は、簡単にみえて、複雑にして難解な課題である。これまで提案された「情報」の定義は、多元的・階層性となり、かつその本質ではなく、性質や効用を説明するにとどまっていた。本質は本来一元的定義を求める。情報自体には未来性も過去性もなく、現存在でしかないという性質があることから、情報が「時間」概念と似ていることに着目した。だが、情報は時間と違い、未来事象への関連性が強い。未来とは可能性であり、可能性の本質を「反情報」であると仮説した。反情報が、あらゆる存在物にcon-formされて情報となり、情報が存在物を in-formするという構造を提案する。反情報概念を用いると、これまで説明が困難であったような事象も、説明ができることも発見した。ウィーナーは、あらゆるものは「物質とエネルギーと情報からなる」とした。反情報概念を用いることで、物質、エネルギーに比肩する「情報」の本質がみえてくる。
本研究はWWWとZ39.50を透過的に利用できるデータベース選択支援環境を提案し、その環境を実現するWWW- Z39.50クライアントを開発した。この環境ではZ39.50データベースに関する情報をWWW上で共有して利用できるだけでなく、利用者が自由にデータベースを組織化し、利用者同士でお互いに参照・利用できる。また、共有された情報であるデータベースリストの中から任意の一つをクリックすることによって、該当するデータベースの検索画面が起動し、直ちに検索を開始できる。
本稿は、オーストラリアにおいて、著作権法の枠組みの中で行われている、放送番組 および放送事業者の保護のあり方を、日本におけるそれと比較検討し、その仕組みを 明らかにしようとするものである。オーストラリアにおいては、日本のように、 放送事業者の放送行為に著作隣接権を認めるのではなく、放送行為の成果物たる放送 自体に、「放送」としての著作権が認められている。また、事前に収録された放送番 組については、「放送」の著作権とはべつに、「録音物」または「映画」としての著 作権が認められている。本稿は、「放送」、「録音物」、「映画」の順で保護の構造 を述べ、最後に日本法と比較したオーストラリアの保護制度の特長を考察するものである。
正倉院文書は、喪大寺の正倉院に伝来した8世紀の文書群の総称である。本文書は、背面再利周と19世紀初頭からの「整理」作業のため、その奈良時代の帳簿の形態が著しく揖なわれ、論理構造と物理構造の差異という特徴をもつ。この帳簿形態の復原過程を関連史料の各々の実体を含めてXML/XSLT(eXtensible Markup Language/eXtensible Stylesheet Language Transformations)で記述する手法を案する。筆者らは、この復原過程における関連史料の各々の実体を統合化するための構造化ルールをXML/XSLTを用いて記述し、復原研究を支援するシステムを構築した。本システムでは、関連史料が横道化ルールのXSLT記述に基づいて階層碍造化され、中間表現としてのXML文書が生成される。また、横道化ルールからの例外により新たな事象の発見が可能となり、新たな知見を得る機会になる。生成されたXML文書は、論理構造を復原するXSL(eXtensible Stylesheet Language)に基づき、Webブラウザ上に表示され、またWordマクロ機能により物理構造が反映された「短冊」として復原できる。本論文では、帳簿形態の復原過程をXML/XSLTで記述する手法、及び実現したシステムの有効性について考察する。
本稿では電子資料館プロジェクトを、主にデータ記述の視点から述べる。まず全文テキストデータを形成するために独自に開発されたマークアップ規則(KOKIN)について詳しく述べる。次いで、KOKIN規則に基づいて形成されたテキストをSGMLに基づくテキストに変換する試みについて述べる。最後に、コラボレーションを目指したメタデータとZ39.50によるデータベース統合の試みについて概説する。
本論文は道教の教典「正統道蔵」に含まれる道教呪術の理論的解説書「道法會元」の電子化実験について報告する。道法令元は宋から元の時代にかけて成立したといわれ、道教の儀式に用いられる符などの図が中心の資料である。歴史資料を竜子化する際にはその資料の特徴を考慮した電子化が必要である。道法會元では、図と文字が混在しているという特徴を活かす視点で、図の論理碍造を記述する電子化を行い、WWWベースの「適法會元」検索システムを実現した。また、電子化作業の際に発生する問題点について考察した。