田窪直規 Naoki TAKUBO
 近畿大学Kinki University

* 第1回知識・芸術・文化情報学研究会(2011年度第2回(通算第15回)情報知識学会関西部会研究会)報告 [#wffcc764]

- 日 時:1月21日(土)11:00〜17:30
- 会 場:立命館大学大阪キャンパス
- 共 催:アート・ドキュメンテーション学会関西地区部会
- 協 力:立命館大学グローバルCOE「日本文化デジタル・ヒューマニティーズ」拠点
- 発 表:13件
- 出 席:29名

* 0	はじめに [#u1578166]
主に大学院生や若手研究者を意識して,「知識・芸術・文化情報学研究会」を開催した.主催は情報知識学会関西部会とアート・ドキュメンテーション学会関西地区部会であるが,同志社大学文化情報学部とも連携したので,研究会の名称は,この三者を意識したものになった.なお,アート・ドキュメンテーション学会関西地区部会長の本務校である立命館大学の協力を得ることができ,同大学大阪キャンパスを使用することができた.
当日は4つのセッションにわかれて発表が行われたので,以下各セッションの発表者とその所属,および発表タイトルと発表概要を,発表者提供のデータに基づいて紹介する.

* 1	第1セッション [#tb141485]
- 発表1
- 発表者:阪上綾香(同志社大学文化情報学専攻博士課程前期1年)
- 論 題:西鶴作品の文体比較:「好色物」「武家物」を中心に
- 要 旨:
> 江戸時代前期の作家井原西鶴(1642?〜1693)の好色物4作品(『好色一代男』『諸艶大鑑』『好色五人女』『好色一代女』)と,武家物5作品(『西鶴諸国はなし』『本朝二十不孝』『男色大鑑』『武道伝来記』『好色盛衰記』)の使用語彙に注目し,好色物と武家物の使用語彙にどのような違いがあるのか計量的な観点から分析を試みた.

- 発表2
- 発表者:古屋拓海(同志社大学文化情報学研究科修士1年)
- 論 題:「彼」「哀れに笑ふ」(作者名:比賀志英郎)と太宰の小説の比較
- 要 旨:
> 太宰治の作とされる小説「彼」と「哀れに笑ふ」が近年発見された.この2作品の著者は「比賀志英郎」となっているが,これらが太宰の作であるか否かを助詞の使用率に注目して分析を試みた.主成分分析の結果,2作品と太宰治の初期作品の助詞の使い方が類似していることが確認できた.

- 発表3
- 発表者:小野原 彩香(同志社大学文化情報学研究科博士後期課程)
- 論 題:旧徳山村周辺地域の語彙に関する数理的側面からの再検討
- 要 旨:
> 本研究では,過去に方言調査の行われた旧徳山村周辺地域の基礎語彙に関する調査結果に焦点を当て,集落間における使用語彙の差を明らかにした.各集落の東京方言,京都方言との基礎語彙の一致,不一致数を元に主成分分析を行った結果,徳山村とその周辺の主成分得点に明らかな差が見られた.発表では,この語彙側面からの結果を元にして音韻,アクセントとの対照というアプローチからの分析が可能となることを示す.

* 2	第2セッション [#cac22443]
- 発表4
- 発表者:河中健馬(和歌山大学村川研究室 M1)
- 論 題:全文検索エンジン選定支援システムの構築
- 要 旨:
> 全文検索エンジンは文書群に対する全文検索機能を提供するソフトウェアであり,独自の全文検索サービスを構築・提供する際には不可欠である.サービス構築にあたり,開発者の経験や好みで全文検索エンジンが選択されており,ニーズに合ったものであるとは限らないという課題がある.そこでこれまで,利用ニーズに適した全文検索エンジンの選定を支援するシステムを作成してきたので報告する.

- 発表5
- 発表者:渡上将治(和歌山大学システム工学研究科M2)
- 論 題:文献調査支援のためのスタンドアロン型全文検索システムの構築
- 要 旨:
> インターネットに接続する環境のない場所でも利用でき,個人の持つテキストデータを瞬時に検索できる全文検索システムを構築した.今回,寺院や博物館などに所蔵される史資料の文献調査を支援する機能を開発したので報告する.研究者自らがシステム導入及び検索を行う点に留意し,望まれる要件として再利用性と導入容易性を定義し,インタフェースや独自のブックマーク機能によりこれらを満たすようにした.

- 発表6
- 発表者:原悠也(和歌山大学大学院システム工学研究科M1)
- 論 題:光ディスク作成支援のためのコンテンツデータベースシステムの構築
- 要 旨:
> 研究室や会社,公共組織など,規模の大小にかかわらず,組織は様々な文書を管理している.これらのファイルをある目的で取捨選択し,メディアに記録して配布することもよく行われる.そこで,光ディスクへと記録することを想定し,作業を支援する文書管理システムをWebアプリケーションとして開発したので報告する.ディスクの作成履歴を含むデータの管理方法についても述べる.

- 発表7
- 発表者:山路正憲(立命館大学衣笠総合研究機構RA)
- 論 題:FilemakerデータベースWeb公開の効率化ツールの開発
- 要 旨:
> 立命館大学アート・リサーチセンターでは,日本の伝統文化に関するDBを数多く構築,開発している.DBをWeb上で公開するためにはそれぞれの対象に適した閲覧・検索・編集等様々なプログラムを開発する必要があるが,これには少なくないコストを要するのが現状である.このデータ公開に際する障壁を取り除くツールを開発することにより,データベースの蓄積から公開までの流れを円滑に行えるよう支援する手法について発表する.

* 3	第3セッション [#m39a4251]

- 発表8
- 発表者:松森智彦(同志社大学文化情報学研究科博士後期課程2年)
- 論 題:人文学研究におけるデータ中心アプローチの可能性:『斐太後風土記』データベースを事例として
- 要 旨:
> データ中心アプローチ(DOA)とは,情報工学のシステム開発分野の用語である.データベースを中心にシステムを設計・構築する手法で,今日広く用いられている.本研究ではこの手法を人文学研究に持ち込み,事例研究を行う.人文学研究におけるDOAについて定義を定め,それをどのように実践するのか明らかにする.また事例研究として明治初期の物産誌を入力した『斐太後風土記』データベースを紹介しGISと統計による研究活用例を示す.

- 発表9
- 発表者:周萍(立命館大学衣笠総合研究機構PD)
- 論 題:水滸伝イメージデータベースの構想
- 要 旨:
> 白話小説の水滸伝と江戸文芸の関わりについて研究するには,多数の水滸伝版本と江戸の文芸作品を手にする必要がある.研究にあたって,挿絵と文章が分離しがたい資料も多数あるため,撮影および影印資料のデジタル化を通して,多くの資料の画像データを蓄積してきた.「水滸伝」という長編小説および関連する大量の画像データをデータベース化するために,このような資料の性格や内容を踏まえたデータベースの構想が必要となる.今回,その試案を提案する.

- 発表10
- 発表者:要真理子(大阪大学),前田茂(京都精華大学)
- 論 題:映像を介した感性的コミュニケーションの事例研究:remoscopeの場合
- 要 旨:
> NPO法人「Remo」は,多様な映像メディアが氾濫する現代社会が,メディアそれ自体,ならびにそのコンテンツによって個々人を圧倒しがちであるとの危機感を抱き,これらメディアの主体的使用を目指した映像ワークショップ「remoscope」 を展開している.そこでは彼らが独自に唱える「リュミエール=ルール」のもとで,素人にも手軽に扱えるデジタルカメラを使った「凡庸な」映像の制作と鑑賞が指導される.こうしたプロセスの意義を美学的に検討する.

* 4	第4セッション [#s3a3270a]

- 発表11
- 発表者:嘉村哲郎(東京藝術大学 芸術情報センター)
- 論 題:東京藝術大学における芸術・文化資源のアーカイブと循環型情報活用モデルの考察
- 要 旨:
> 2011年5月に設立された東京藝術大学総合芸術アーカイブセンターでは,学内に分散する多様な文化資源をデジタル化し,広く社会への公開・促進を図るとともに,その成果を学内の教育にも還元できる循環型の芸術・文化情報活用モデルの構築をめざしている.本発表では,東京藝術大学における総合芸術アーカイブの取組みの紹介と,情報活用の点から,Linked Dataの技術を用いた多様な芸術情報の活用の可能性および課題について発表する.

- 発表12
- 発表者:永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所 主席研究員/所長)
- 論 題:人文学と情報学の結節点を探して
- 要 旨:
> これまで,我が国では様々なコミュニティにおいて人文学と情報学の結節点を模索する努力が行われてきた.本来,人文学とは文化情報に関する知識化を行い,その成果を共有することを基盤とする営みであるということができ,その意味では情報学が貢献し得るフィールドは極めて広い.本発表では,そのような結節点に関するこれまでと今後の可能性について様々な角度から検討し,貴研究会の議論に一つの視座を提供したい.

- 発表13
- 発表者:當山日出夫(立命館大学GCOE(DH-JAC)客員研究員)
- 論 題:古典籍学術資料のデジタル出版:園城寺の事例について
- 要 旨:
> 園城寺(三井寺)では,天台寺門宗教文化資料集成として,貴重な古典籍を,きわめて廉価なDVD版高精細画像で刊行している.本発表では,この資料の刊行の意義について,特に学術資料のデジタル公開のあり方のひとつの事例として紹介し,その意義と課題について考察する.

* 5	おわりに [#jee8975a]

研究会では質疑応答が活発に行われ,また懇親会では29名の参加者中24名が参加し,楽しい情報交換の時間を過ごせた.今回は研究会,懇親会とも充実したものとなった.皆様には次回の参加をお願いしたい.



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