情報知識学会ニューズレター > No.34 (1995.10.1) > ミュージアムにおけるインターネット利用 ---その展望と課題---

ミュージアムにおけるインターネット利用 ---その展望と課題---

トータルメディア開発研究所 木下達文

1 一枚の新聞記事の切り抜きから

平成7年5月10日付の日本経済新聞に「米スミソニアン博物館、インターネットで情報発信」というタイトルの記事が載っているのに目が奪われた。折しも、戦後50年を契機にアメリカのスミソニアン博物館が思い切って「原爆展」を開催しようとしたが、退役軍人等の猛烈な反対にあい、当時の館長は辞任に追い込まれ、特別展は単なるB-29(エノラ・ゲイ)単体のみの何のメッセージも持たないない展示会に縮小せざるを得なくなる事態が盛んに報道されていた時期であっただけに、強烈に私の興味を引いた。記事によるとその内容は、「マルチメディア対応のデータベース機能、ワールドワイドウェッブ(WWW)で、世界のどこからでもインターネットを通じて1500ページを越えるスミソニアン情報にアクセスできるほか、展示品の一部をコンピュータ画面上で見ることも可能になる。」とある。この記事を見る以前からインターネットについても多少の興味はあったが、本格的に稼働するにはまだまだ先の話のような気がしていた。ところが、様々な事情があるにせよ世界に開かれたミュージアムをめざしてその第一歩を踏み出しているスミソニアンの現状を知って、日本でもこれを専門的な立場で研究していかなくてはならないなと強く感じた次第である。

2 国内におけるこれまでのミュージアムネットワーク

インターネットを語る前に、これまで国内のミュージアムにおけるネットワークについて私の知っている範囲で 簡単に触れてみたい。ミュージアムネットワークと一言でいってもその内容は様々である。本学会の会員であれ ば、“コンピュータを利用した情報のネットワーク”と考える人が多いのでわないかと思われる。しかし、この 言葉でくくられるものの中には、大きく3つのタイプがある。人的ネットワーク(人の交流−派遣みたいなも のも含まれる)、資料ネットワーク(いわゆる特別展などで行われる実物資料の交換や、出版物資料の交換な どを意味する)、情報ネットワーク(これがコンピュータネットワーク)である。ここで取り上げたいのはもちろんであるが、ともこれまでの論議に含まれていたことを留意しなくてはならない。また、コンピュータネットワークのなかでもさらに館内ネットワークと館外ネットワークとに分けられる。残念なことに、日本で は館内ネットワークを持つ施設の方がはるかに高く、館外ネットワーク(つまり他の施設、あるいは個人との情報交換にコンピュータを利用すること)はいまだにほとんど行われていない状況で、整備も一番立ち後れている 。そうした状況の中で、前年度全国科学博物館協議会が中心となって「資料情報のネットワーク化に関する調査研究」が行われ、最近その報告書ができあがった。その中でも国立の施設を含め先進事例がいくつか示されているが、ネットワーク化についてはサイエンス系のミュージアムにおいていこれからといった感が強い。唯一注目に値するのは、インターネットとパソコン通信である。インターネットについては後で触れるように今後に大きく期待されるネットワークで、パソコン通信は現在ネットワークと呼べるにふさわしいものの一つである。国立歴史民俗博物館をはじめ、阪神大震災のあった兵庫県にある県立人と自然の博物館など数館でミュージアム情報等のサービスを数年前から開始している。基本的にはテキスト情報が中心であるが、一般の市民が通常のパソコン通信と同じようにデータベースを利用したり、電子メール等で情報交換のできるシステムとなっている。また、美術館等では、数館が提携して所蔵作品のデータベースをネットワークを通じてハイビジョンで楽しめるといったところもある。しかし、全体的にみて日本におけるミュージアムのコンピュータネットワークは、ほとんど確立していないといった状況であろう。

3 インターネット(マルチメディア)時代のミュージアムネットワーク

もうすでに多くの方がインターネットに触れ、あるいは実際に導入されていることと思われるので、ここではミュージアムとインターネットとの関わり、特にネットワークとしての利用について考えてみたい。インターネットとは、ご承知のようにネットワークのネットワークとして本来は大学や研究機関等が公共目的としてアメリカを拠点として構築されてきたものであるが、商用目的にも門戸が開かれたことによって、日本ではなぜかビジネスとしての利用がとやかく新聞で騒がれている。ミュージアムがインターネットを利用することは、本来の公共性を取り戻すことであるとともに、より開かれた施設として明確化するたいへん意義のあることだと思われる。ところで、現在インターネットで情報を提供しているミュージアムは世界中で約100館程度で、日本も徳川美術館をはじめとして数館ほど登録している。私もそれらの画面が見たくて、最近話題のインターネットカフェに赴き、いろいろと試してみた。インターネット上で何ができるかというのは、それぞれのミュージアムで何を提供しているのかによって様々である。たとえば、スミソニアン博物館では、ミュージアムの沿革から常設展示内容、イベント情報、教育プログラム、出版物等の豊富なメニューがホームページに設けられており、その内容もかなり深いレベルにまで及んでいる。ライト兄弟の複葉機からアポロ宇宙船に至るまでの映像情報も見ることができる。また、出版物については、その概要が示されており、通版で購入することができるようになっている。驚いたのは、サンフランシスコのエクスプロラトリウムでは科学館であるにも関わらず、日本人の撮った長崎の原爆後の写真を無声映画のように見ることができたことであった。現時点では、施設のパンフレット、あるいはカレンダー情報、図録情報などをインターネット上で提供しているといった感じであるが、それだけでも日本に居ながらにして、瞬時に入手できるといったことはたいへんな驚きであった。将来的には、静止画像だけでなく動画などもビデオ・オン・デマンドのように解説映像も自宅に居て必要な情報が見れるようなサイバーミュージアムが日常的になる日がくるかも知れない。ミュージアムに限らず、公共施設というものは場所と時間が限定されるだけに、地域にあっても遠ければ行かなくなってしまうのは当然のことである。文字あるいは映像や音声情報としてネットワーク上に乗せれるものであれば、それらは二次情報ではあるが大いに役に立つはずである。逆に、ミュージアムとしては本来の一次情報(本物=オリジナル)の持つ役割というものを明確にし、二次情報との棲み分けが必要になる。また、これだけコピー文化が発達した時代に本物を有することの意味がまた見直されてくるのではないだろうか。

4 おわりに

インターネットができたからといってもいい事づくめではない。画像通信の時間がまだ非常に遅くそれだけでストレスを感じるなどコンピュータシステム上での問題点や、基本的にネットワークの無い状態からデータを最初から構築するための人や金などミュージアム側としての問題点、パソコンを使用するために20代から30代の若い人が中心となってしまうという点、国内を除いて標準語が英語であるということなど様々な課題が前途にはある。しかし、ここ数年の内に多くのミュージアム(特に大型の施設や科学・美術系が中心となろう)で簡単なものから本格的なものに至るまでホームページが開設されることになろう。私個人としてもインターネットから情報発信ができるように努力したいと考えている。

最終更新日: 2018-04-27 (金) 11:42:53

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